*華月譚*花ノ章 青羽山の青瑞の姫

その時、木立の向こうから、緊張感のない声が響いてきた。






「ぅお〜い、灯〜? 汀〜?」






群雲の声である。






「おっ、いたいた」






近づいてきた群雲に気づいた灯は、慌てて口許を塞いでいた手を離し、振り返った。






その顔を見て、群雲は目を剥く。







「…………どうした、灯。



真っ赤な顔をして」







「〜〜〜〜〜何でもない。



気にするな………」







群雲は不思議そうに、頬を紅潮させた灯の顔と、にこにこしている汀の顔を見比べていたが、肩を竦めて泉のほうへ視線を向けた。








その視界に、花吹雪の中、ぼんやりと薄らいでいる青瑞の姫の姿が入ってきた。






「…………なんだ、あれは」






群雲が独り言のように訊ねると、汀が「青瑞の姫よ」と答える。






「どうやらやっと成仏できるみたいなの」





「ほう。本当にいたんだな………」







感心したような群雲の声が聞こえたのか、青瑞の姫がふわりとこちらを見てくる。