*華月譚*花ノ章 青羽山の青瑞の姫

すると、唇に違和感があった。






「…………?」






確かめるように、指先で唇に触れてみる。






「……………なんだか、ぬるぬるする」






独り言のような呟きが、風に乗って汀の耳に届いた。





くるりと振り返った汀が、唇を押さえている灯に声をかける。






「あぁ、それはね。


私、唇に椿油を塗っているのよ。


乾燥して切れて痛いって言ったら、露草が椿油を塗るといいって教えてくれたから」





「…………それはいいんだが。


お前が椿油を唇に塗っていることと、俺の唇が変にぬるぬるしていることと、何が関係あるんだ?」






そう訊ねてから、灯は動きを止めた。







(…………ま、まさか)