*華月譚*花ノ章 青羽山の青瑞の姫

虚ろな瞳に、青空の中を躍り狂う薄桃色の花々の舞が映る。






『……………美しいな』






誰に言うともなく、そんな言葉が蒼白い唇から洩れた。





汀も空を仰ぎながら、小さく頷く。






「本当に、きれいね。



………でもねぇ、あなた。


外の世界には、きれいなものがもっともっとたくさんあるわよ。


咲き誇る春の桜はもちろん、夏の夕風に揺れる簾も、秋の夜長に月見を楽しむ子どもたちも、屋根に積もった冬の雪も。



どれも素晴らしいわ。


こんな山奥の泉に閉じこもっていたら、見られないものばっかりよ」






『………………』







囁きかけるような汀の言葉に、青瑞の姫は遠くへ思いを馳せるような目をした。






確かに、知っていたはずのものだ。




でも、あまりにも時間が経ちすぎてしまった。





昔は確かに知っていたはずの、美しいものたち。






『……………見たい。



もう一度、この目でーーーーー』