*華月譚*花ノ章 青羽山の青瑞の姫

『…………どれだけ待ったか、もう分からなくなってしまった。




幾日、幾月ーーーいや、幾年か。




そんなことは、どうでもいい。



私はただ、あの人を待ち続けていた。





今宵こそ、そうでなくても明日の夜こそ、あの人が訪ねて来てくれるかもしれない。




そう思うだけで、時の長さなど、夜の長さなど、私は何も辛くなどなかった。




あの人の面影だけが、私の支えだった』







汀も灯も、何も言わず、静かに青瑞の姫の言葉を聞いていた。








『…………そうして、今日。



やっと、私の想いが報われた…………』







「……………え」








青瑞の姫が語る悲しく美しい恋物語に心を打たれていた汀が、ぱちくりと目を瞬いた。







『長らく待っていた甲斐があった………』







青瑞の姫の瞳が、真っ直ぐに灯を見つめている。






汀はやっとこれまでの流れを思い出し、冷や汗を浮かべた。







「…………あっ、青瑞の姫さま!!



ちょ、ちょっと待って!!」







汀は慌てて身を乗り出し、灯の首にぎゅうっと抱きついた。







「この人は、違うんですってば!!



この人はあなたの待ち人じゃありませんから!!」