*華月譚*花ノ章 青羽山の青瑞の姫

青瑞の姫はその頃に思いを馳せるように遠い目をしていた。






『……………私は待った。


あの人を信じて、ただただ待った。



家の者の目を盗んで邸を抜け出し、信用のおける女房と男童だけを伴って青羽山に辿り着いて、泉の前でただただ待った。




幾夜が明けたのかも、だんだんと分からなくなった。


きっとあの人は忙しい日々の中で、妻の目を盗んで抜け出せる日を待っているのだ。



だから、少しくらい遅くなるのは仕方がない。




私に出来るのは、もはや、待つことだけ。



私は夢の中にいるような虚ろな心地で、ただただ待っていた。




気がつくと、女房も男童もいなくなっていた。




それでも私は、あの人を待った。



いつまでも、いつまでも。




だって私は、今までもずうっと待っていたのだから、今さらその時間が多少長くなったところで気にもならなかった。




そうして、いつまでもいつまでも待ち続けたーーーーー』