*華月譚*花ノ章 青羽山の青瑞の姫

『……………あの人からの文は、いつまで経っても届かなかった。



悩み抜いた末、私は、ひとつの賭けをすることにした。



ーーーあの人に、歌を贈る。


そして、その歌を見て、あの人が約束の場所に来てくれたら………私の愛に気づき、戻ってきてくれたら………。




そんな想いをこめて、私はこんな歌を詠んだ。




契りせしころ懐かしき


青葉なる泉にて待つ我を忘るな




ーーー約束した………夫婦となることを約束した頃が懐かしいですね。


その青葉の頃、若葉のように幼かった頃と同じ名をもつ青羽山にある泉で待っている私を忘れないでください。




あの人ならば、この歌を見れば私の気持ちが分かるはず。


そして、私が待つ青羽山の泉に、きっと足を運んでくれるはず。



私の文に返事をしないのは、迎えたばかりの正妻に気兼ねをしているのだろうから。


だから、都を離れて青羽山まで来れば、私と逢うことに何も戸惑う必要もない。



あの人はきっとそう考えて、青羽山の泉まで訪ねて来てくれると思ったのだ』