*華月譚*花ノ章 青羽山の青瑞の姫

樹々の間を、風のような速さで栗野は駆け抜けていく。






「………あらまぁ。


栗野ったら、とっても速いのねぇ」






振り落とされないように必死でしがみつきながらも、汀は目を丸くして感嘆したように呟く。





十歩ほどの間隔で追いかけている灯は、その微かな呟きをはっきりと聞き取り、怒り心頭だ。






(………阿呆め。


何を呑気なことを………。



こいつ、もう放っといてやろうか)






あわや落馬、大怪我をしかねない状況にあるというのに、汀はどこか気持ちよさそうに、風を楽しんでいるようにさえ見える。





そんな汀を見つめて、灯は心底呆れ返ったように溜め息をついた。




しかし、助けてやらないわけにもいかない、と灯は自分を奮い立たせる。