*華月譚*花ノ章 青羽山の青瑞の姫

灯に肘で突つかれて、汀はちらりと青瑞の姫を見た。






「…………あのぉ、一言いいですか」






汀が遠慮がちに声をかけると、青瑞の姫はぎろりと睨みつけてきた。






『まだ話は終わっていない!


口を挟んでくるな!!』






「あっ、はいっ、すみません!」






あまりの剣幕に、汀は思わずぱっと口を閉じた。






『ーーーあの人が妻を娶ってしまって、私は抜け殻のような日々を送っていた。



あまりにも私の悲しみと失意が深いのを見て、女房たちが、一度だけでも私の想いをつづった恋文を送ってみてはどうか、と言った。



それで私は、文を書いた。



私は確かに高貴な姫だが、正妻でなくても気にはしない。


見苦しい嫉妬などは決してしないから、私も妻にしてほしい、と。



あの人ほどの身分であれば、正妻の他に幾人もの妻を持っていても当然。


むしろ、箔が付いて男ぶりも上がるというものだ。



だから私は、第二の妻の地位に甘んじてでも、どうしてもあの人に、思いのままに私のもとへと通ってきて欲しかった。


私はあの人を取り戻したかった。



なんせ私たちは、幼い頃より愛を誓い合った仲なのだから………』