＊華月譚＊花ノ章 青羽山の青瑞の姫

『…………ある日突然。


そう、あれは全く突然のことだった。



あの人はーーーーー結婚してしまったのだ…………』







「……………まぁ」







汀は目を丸くして青瑞の姫を見つめた。




その顔は悲痛の色を深め、まるで今まさに思い人の裏切りに遭ったばかり、というようだった。







『私は苦しんだ。


苦しくて苦しくて………悩んだ末、堪えきれなくなって、あの人のもとへと使いをやった。



ーーーーーその使いの者の報告を聞いて、私にはやっと、あの人の気持ちがわかった………』







「まぁ、なんですか？」







『使いの者によると、あの人の妻となった女は、たいそう格上の貴族の姫だったのだよ。


そうーーーいわゆる政略結婚。



あの人は、それはそれは幸せそうに妻と仲睦まじく暮らしていたというが。


それはあの人の優しさ………。



私という最愛の女を裏切って政略結婚せざるを得なかったその心中を思えば、それはそれは辛かったに違いない。



あの人は私を失った悲しみと辛さを押し隠しながら、幸せなふりを必死にしていたのだよ…………』







「…………………」







「…………………」








涙を拭う青瑞の姫の前で、汀と灯はそっと目を合わせた。