*華月譚*花ノ章 青羽山の青瑞の姫

いくら灯の足が並外れて速いとはいえ、全力疾走の馬にすぐにも追いつけるわけではない。





「きゃぁぁぁ〜〜〜たいへーんっ!!」





他人事のような叫び声を上げている汀に舌打ちしながら、灯は必死で走った。





あと数歩で追いつく、というところで。




栗野は馬場の柵を飛び越え、とうとう外へと逃亡した。






「あっ、栗野!!」





息を呑んで見守っていた楪葉が、大きく叫ぶ。





しかし興奮した栗野の耳に、その声は届かなかった。






一目散に森の方へと駆けていく栗野を、藤波と楪葉は呆然と見送る。






灯は柵に手をつき、そこを支点にして跳び越えると、さらに足を速めて汀と栗野を追った。