「………んまぁっ、蘇芳丸!」





汀は驚いたように灯を見上げた。



右手の力が抜け、ぽろりと落ちた包丁を、灯が間一髪、空中でつかみとる。




そのまま包丁が落ちれば、まな板の前に正座をしている右の膝に突き刺さるところだった。






「………おまっ、危ないだろ!」






思わず叫んだ灯に、汀は困ったわねぇという顔で苦笑する。






「蘇芳丸ったら………。


だめよ、邪魔しちゃあ。



遊んで欲しいのは分かるけど、私だって遊んであげたいのはやまやまなんだけど、今はお料理中なのよ。



刃物を使っていて危ないから、離れていらっしゃい」






「〜〜〜〜〜っ!!」







灯は怒りのあまりこめかみに血管を浮かび上がらせる。






汀の腕をぐいっと引いて立ち上がらせると、無言のまま汀を引きずって、共同の調理場から退散していく。






その後ろ姿を、小桃と女たちは呆然と見送った。