淋しいお月様

私は首を横に振る。

「知らなかったわよ、昨日まで。セイゴさんって、ミュージシャンだったんだね」

「なんだあ、知っちゃったか……。まあ、隠すことではないけれど……」

チケットをひらひらと宙で遊ばせ、セイゴさんはベッドから起き上がる。

「全然知らなかった」

「俺のことを知らないで、仲良くしてくれた子って貴重だからさ。星羅ちゃんといると居心地よかったんだけど」

べしっ、と私はセイゴさんのあたまを平手で軽く叩いた。

「うちは宿屋じゃございません」

「あははは。でも変わりないね、その態度。今まで通り接してくれる?」

「今まで通りも何も……。セイゴさんはセイゴさんでしょう」

「あははは。そうだね。いい。いいね、その性格」

「セイゴさんが絶大な支持を受ける歌手だからと云って、私の態度は変わりません」

「ありがとう」

「特別扱いはしないからね」

「それでいい。いい」

セイゴさんは大きく頷く。