淋しいお月様

「はい。住所変更ですね。かしこまりました。それではお客様のカード番号をお願いします」

いつもの営業トークで、声がワントーン上がる。

電話の仕事では、表情がお客に伝わりにくいから、笑顔、ではなく、笑声を使えと言われている。

話している間は、口角をあげるのを意識するのがよいらしいのだ。

『あ~、カード、手許にないや』

――カードくらい、手許に用意してから電話しぃや。

私はこころの中で悪態をつく。

「それでは、お客様の登録のお電話番号をおねがいします」

『あ~、090……』

私は云われた番号を、パソコンに打ち込む。

出てきた。

斉藤郁夫という名前に、生年月日、住所、カード有効期限、請求の支払い遅れなし、それにカードのショッピングとキャッシングの利用限度額が、一瞬のうちに画面に表示される。

「それではご本人様確認のため、お名前と生年月日を昭和からお願いします」

『斉藤郁夫、誕生日は……』

「はい、ありがとうございます。ご本人様確認がとれました。それでは千葉県市原市から、どちらへお引越しですか?」

住所変更は基礎中の基礎の仕事だ。

クレームもない。私は淡々とお客の相手をこなした。