淋しいお月様

「あの……、こほん、彼氏の転勤で……」

ふたりの、よっつの目が輝きを増した。

「やっぱり、彼氏か~」

「恋に生きる女って感じ」

葵ちゃんにクマさんはほーっとため息を漏らす。

その彼氏とは、音信不通、なんてことは言えなかったけど。

何だか、ふたりの盛り上がりに水を差すようだったから。

「葵ちゃんたちは? いつからここに?」

私は話題を変えた。

「私は、1年くらいかな。前の会社、嫌になっちゃって辞めちゃった。それで、派遣社員」

と、葵ちゃんがお弁当の包みを開きながら言う。

「私は、今妊娠してるから。短期でここに雇ってもらったんだ」

と、クマさん。

そうか、クマさんのふっくらした体つきは、妊婦さんだったからなのか。

「そうなんだ。いいね、元気な赤ちゃん生まれるといいね」

私の言葉に、クマさんはお腹をさすってみせた。

首から提げるストラップが揺れた。

カードケースの中に”熊谷のぞみ”とあった。

そっか、クマさんのあだ名の由来は、”クマガイ”から来てるのか。納得した。