「たけるー?起きてる?」


「………………。」


猛の部屋に行き、起こしに来たはいいけれど…中から猛の返事はない。

代わりに返ってくるのは規則正しい寝息だけだった。


…うーん。どうしよう。


実は、猛も寝起きが悪いのだ。

悪いと言うより、面倒くさいと言うか…。

うん、面倒くさい。


そして、数秒悩んだ挙句、私の出した考えは玲央くんにいつも通り起こしてもらう事だった。


「玲央くーん!」


「…………。」

大きい声で、彼のいるリビングにも聞こえるように叫んだが、返事はない。

リビングでコソコソと『お前も大変だな…』と話しているのが聞こえなくもなかった。


「れ お く ー ん ?」


もう一度大きい声で叫ぶ。

すると、玲央くんは大きな溜息をつきながら観念したようにリビングから出て来た。


「…また俺ですか?もういやッスよ。」


と言いながらも猛の部屋の前に素直に立ってくれる玲央くん。


うん。若い子は素直でいいねぇ。


「よしよし。ごめんね?また今度プリン作ってあげるからね。」


「………生クリーム付きですよ?」


「…分かった分かった。」


玲央くんは大の甘党。

私が前に作ったプリンをひどく気に入ってくれたらしく、何か頼み事がある時はいつもこれを使うの。


「はぁ…。女の子なら喜んでやるんだけどなぁ」


ブツブツとそう呟き、猛の部屋に入って行く玲央くん。

ここからが問題なんだけどね。


「……猛さん。朝ッス。起きて下さい。」


猛の肩を掴みゆらゆらと揺らすが、全く起きる気配はない。


「猛さん!朝ですってば!」


先程より玲央くんが強めに肩を揺らした結果。


「猛さ…、」


ガバァッ!


抱きつかれました。


あ、もちろん私がじゃないよ?

玲央くんがね。


そう。これが猛を起こすのが面倒くさい理由。

猛は、朝になると何故か抱きつき癖がついていて、いつもは朝早く自分から起きて部活に行ってるのだが…たまにこうして朝練がないと、誰かが起こさないと絶対に起きない。

なのに、起こすと抱きつかれると言う事から誰も起こしたがらないのだ。