写真部の部室をノックする。



「失礼します。先生、遅れてすみませんでした。」



部室のソファーに座っていた先生は、私の顔を驚いたように見上げた。

そして、しばらくして。

肩を揺らして、くくっ、と笑う。



「え、先生?」


「くくっ、朝倉、鼻血出てる。」


「えっ?」


「つーか、鼻血だけじゃないなその血は。保健室行くぞ。」


「でも、先生、」


「大丈夫だ。もう保健室、誰もいないから。今何時か分かってる?」



時計を見ると、7時半。

いつの間にこんなに時間が経ったんだろう。

もうとっくに、下校時間を過ぎている。



「ずっと、待っててくれたんですか?」


「さあね。」



先生は、少し笑って言う。

ずっと待っていてくれたんだろう、と思う。



「こんなに怪我して。ばっかじゃないの。」


「ええ。ばかですね。」


「ほんっと、青いよなあ。」



先生が、私をバカにする声が、今日は少し優しい。

それだけで私は、救われる―――



「村本に、ちゃんと言ってやった?」


「え?」


「正式に付き合ってるわけじゃなかったんだって?お前ら。」


「どうしてそれを?」


「村本が言ってた。あと、えーっと、何だっけなあ。花って名前のやつ?」


「花ちゃんが?」


「そうそう。何あいつ。なんかめっちゃ怖い顔して、萌と村本先輩は付き合ってません!とか言ってきたんだけど。」


「ふふっ。」



花ちゃんの真剣な表情が、目に浮かんだ。

私は笑いながら、泣きそうになってしまう。

それに、花ちゃんのセリフとしてなんだけど、先生の口から萌、って言葉が聴けて、私は嬉しかった。



「ちゃんと言えました。さよならって。」


「え?」



先生は、まじまじと私の顔を見つめる。



「え?」


「お前、さよならしてきたのか。村本と?」


「ええ。」


「……俺、何か余計なことしたかな。」


「えっ?」


「何でもない。……そうか。ははっ。」



先生は、何だか愉快そうに笑っている。

私は意味が分からなくて。

でも、先生が笑っているのは嬉しくて。

久しぶりに、先生と笑い合った気がした。