老人は続けた。


「他にお客は居ないし最後にゆっくり映画を観ながら待つのも良いだろう?
悲しむ事はないよ。好きな映画を観ながらなんだからね。」



そう言うと老人は、僕が払おうとしたお金をそっと返しながらウィンクしてきた。


何とも愛嬌のある顔に見える。


確かに、もうお金に意味は無いのだと思うと僕は笑えてきた。


彼女の所に戻りポップコーンとコーラを渡すと彼女はありがとうと綺麗な歯を見せ笑う。


僕らの斜め前に老人とその奥さんが座り肩を寄せ合いながら映画を観始めた。


映画はトニーモンタナが一人で撃たれて死ぬ所で終わる。



老人が立ち上がると二度目の上映が始まる。


何度も繰り返し振動が建物を揺さぶっていたが僕らは一人ではなかった。


僕は、彼女の肩を抱き寄せて彼女の温もりを感じながら映画を見続ける。


彼女は、一瞬だけこちらを向くと軽くキスをしてきた。


ラストのシーンでアルパチーノ演じるトニーモンタナは、やはり一人で死んでいくが僕も老夫婦も一人ではなかった。