《あぁ、そうだ。なぁ、智紘》
初めてまともに名を呼んだことに頬を緩ませながらその声の主を見る。

「どうした?」
《お前って、陰陽師なのか?》



「なんで?」

突然の質問に、コテンと首をかしげた智紘は、質問を質問で返す。


《なんでって…ほら僕、言葉話せるようになっただろう?術をかけたんじゃないのか?》
「…ん~?俺は陰陽師なんて大層なものじゃないよ。陰陽術も使えないし」

《じゃあ、なんで術を…》
「ところで、本当は一人称‘僕’なんだな。話し方も若干変わってるぞー?」



《な、な、な、な…!!》



まだ何か言いかけた獣だったが、智紘のからかいを含んだ声に遮られた。獣は無意識だったのか、動揺したように後ずさる。

「意外と信頼されちゃってる?俺」
《~~~~~~ッッ!!》
二足立ちで、ぴったりと壁に張り付く獣を見てにんまり笑う智紘に話を逸らされたことには気づかなかった。

















「……カキツバタ」
《はい?》

その日の夜。
智紘はベッド、獣はソファーに体を預け、まどろみながらドラマの再放送らしきものを見ていた。


「結局まだお前の名前決めてないよなーっと思って」

ぽりぽりと頬を掻きながら苦笑する智紘に、獣は首を傾げる。

《それで、何でカキツバタ?》
「その瞳の色かな」
《瞳の色?》


「そっ。初めて見たとき、綺麗だなって思ったんだよ」
色がカキツバタ色だろ?と笑う智紘。


「……“イリス”。英語で、アヤメって言う意味。カキツバタはアヤメ科だから。……どう?」


《イリス……良い響だな!!気に入った!今日から俺は、イリスだ!!》

本当に嬉しそうにソファーの上で尻尾を振る。ピシッピシッと音が聞こえそうなほど思いっ切り打ち付けている。
その光景を見て、智紘はまた微笑んだ。