数分後

《我が下僕~!はよう!》
「…はいはい。少々お待ちくださいねぇー」

妙に古めかしい言葉遣いで大声を上げた毛玉の声を聞き取ってしまった智紘はしばらく無視をしていたが、妖怪特有の頭に直接響く声に我慢ができず、渋々風呂場へ向かった。


《よく来たな少年。私の優美な肉体を拝むことを許そう。光栄に思え》


肉体もなにも、皮膚は長く黒い毛で覆われているので見えない。
そもそも、普段から服を着ているわけでもないので、さっきまでと変わらないのではないのか。


「アリガトウゴザイマスー。で、何か御用ですか、毛玉様」
《毛玉はよけいだ我が下僕!敬意が感じ取れんぞ、やる気はあるのか!》


正直に言おう、あるわけがない。
《まあよい。ところで、少年。私の背を流させてやろう》




「…マヌケだな、お前」
《むむっ!?間抜けとは失敬な!私の背中を流させてやると言っておるだけだ!何が間抜けなのだ!》

「背中に届かないだけだろ。石鹸持ったままプルプル震えてるぞ。間抜けに間抜けって言って、何が悪い」

《ヴッ……》


自分でも分かっていたのかうめき声を小さくもらし、黙り込んで俯いた毛玉に、智紘は小さく微笑んだ。



「しょうがないなー。毛玉、ほら、こっち来い」
《何だ?》
「体、洗うんだろ?」