「お前、自分の姿をちゃんと鏡で見たことあるか!?」

《あるに決まっているだろう!!ほれ、見てみろ。私は今日も美し……》


かなりもとの話を脱線して加速していく口論に終止符を打ったのは、智紘の手から逃れて、庭の池に姿を映し、固まった毛玉だった。


「どうした?黒毛玉」


突然全ての動きを止めた毛玉を不審に思った智紘は、毛玉の様子を上から伺ってみた。
すると、



《だ………》

「うん?」



《誰だー!?この見苦しい毛玉はー!!?》



「お前だろうが!」
水面に映った、自分の姿を見て、絶叫する毛玉を、智紘は呆れたように見下ろす。


《嘘…嘘だ!!この私がこんなに見苦しいわけがない!!…そうだ!!貴様の家へ連れて行け!!そして、早急に風呂とハサミを準備するのだ!!》


全身を使って、目の前に映る自分の姿を全力で否定していた毛玉は、突然声を上げたかと思うと、ヒョイッと智紘の頭の上に乗った。


「いや。」
《私を侮辱した貴様に拒否権はない!!さぁ、さぁ!!》
「……」


即答した智紘に被せるように言葉を発した毛玉に眉を寄せる。しかし、智紘の頭の上にいる毛玉にはその反応が見えない。



《この醜い姿は我慢ならん!!急げ!我が下僕よ!!!》
――…プツン




《…?何の音だ?》

「…失せろ。低級動物」