「ってかお前、《ケ》以外にも音発せれたんだ。
なぁ、どこから音立ててんの?もしかしたら喋れるんじゃないか?」

少年が毛玉に手を伸ばし、人差し指で何度か擦るように触れたかと思うと、大人しくなった毛玉にククッと笑った。

《ケケケケケ》

「…お前、本当に毛玉みたいだな」
《ケケーッ》

毛玉という呼称が気に入らなかったのか、ぼよんぼよんとその場で飛び跳ねる毛玉。意外と身軽である。


…やっぱ、こいつ人語理解してるよな。

「俺、旭 智紘(あさひ ちひろ)。ち・ひ・ろ、な。
言える?」

《…ケ?》

意味が分からなかったのか、疑問符をつけて返ってきた。


「ち・ひ・ろ」

《…チ……ヒ…ロ……?》


一文字ずつ確かめるように発した声は、「ケ」以外の言葉だった。

「そう、智紘だ。喋れるみたいだな。
で、お前、俺に何の用だ?」




《……ぁ》
「ん?」
《あぁぁぁあぁぁぁああぁぁあ!!!!
人語を話せる!!人語を話せるぞ、少年!!!
おい、少年ッ!!一体何をしたのだ!?》
「っで!!!」


よほど驚いたのだろう。黒毛玉は勢いあまって智紘の顔面に激突した。


「…いってーな!!何すんだよ、黒毛玉!!!」


しばらくしゃがみ込んだ智紘だったが、突然無言で立ち上がり、赤くなった鼻の頭を片手で抑えながら、もう片方の手で毛玉を摘み上げた。

《そんなことはどうでもよい!!少年、貴様もしや…陰陽師か!!!?》
「どうでもよくないだろ!!まずは謝れ。毛玉」

ジタバタと体を揺らす黒い毛玉を睨みながら、グニーッと左右に引っ張った。

《な、何をする!!初対面の相手に向かって、無礼だぞ!!》

「どっちが無礼だ!!黒団子!!」
引っ張る力を強くしつつ、青筋をたてる。


《貴様だ、少年!!》
「どう見てもお前だろ!!毛むくじゃら!!」

《貴様……さっきから無礼にもほどがあるぞ!!黒団子はまだ美味そうだから良いが、毛むくじゃらはイメージ的に見苦しいではないか!!》


そういう基準なのか。などという無粋なツッコミはこの際入れない。


「実際、見苦しいだろうが!!」
《貴様の目は節穴か!!?私ほど美しく、高貴なオーラを放つ生き物はいない!!!》