ガバッと顔を上げ、ソファーに座る智紘に突進していった。その反動で、今にも触れようとしていたイリスは壁に弾き飛ばされ、後頭部を打ち付けた。


「…来ないでください」
バシッ ドスッ

「んぐっ…痛ッッ!!!」


ものすごい勢いで突進して来る大柄な男に目も向けず、コーヒーの入ったカップを口につけながら、近くにあったお盆を男の顔面に押し付けたと同時に、智紘の足は男の腹にめり込んでいた。


「ちー君ひどぉい…」

「誰がちー君ですか。涙も出てないくせに、白々しい」

出てもいない涙を拭うフリをして、腹を抱える男を冷たい目で見る智紘。


「痛かったー」

「嘘をつかないでください。蹴り。はいってないでしょう?」

「あれ?よく分かったね、ちー君♪成長したー」



「子ども扱いやめてください!!」

めそめそしていた男は一転して、へらへらと笑い、イイ子イイ子と、不機嫌そうな智紘の頭を撫でる。



《チヒロ?》

《チヒロだ》

《チヒロだね》

《チヒロだっ!!》

《チヒロが本当に帰ってきた!!!》


そんな中、先ほどイリスを押しつぶしていた群れは、ピョコピョコと飛び跳ねて騒ぐ。

もはや収拾がつかない騒ぎになっている室内をイリスは、意味が分からない。と言うようにポカンと眺めた。





「――…ゾディアック、全員整列」

そんな状況を変えたのは、智紘の独り言のような呟きだった。智紘の呟きを聞き取った群れは、瞬時に智紘の前に整列した。

「みんな、久しぶり」


《《《《お帰り!!死んだと思ってたぞ!!》》》》


整列してから物音ひとつたてなかったヤツ等は、にっこり笑った智紘の言葉に列を崩さず、合唱する。


「そっか。死んだと思ったことは何度もあったけど、生きててごめんね?」


にこやかな笑顔は崩していないが、言葉の端々にとげがある。そして、にじみ出るオーラはどす黒い。


《死んだと思ったことは何度もあったのかよ…》


イリスは顔を引き攣らせながら、一体どんなことしてきたんだ。と笑顔の智紘を見た。一方、笑顔を向けられたヤツ等は固まり、目を伏せて、一様に血の気が引いていた。


《…えと、チ…ヒィッ………い、いや、なんでもナイデス》

勇気を振り絞って視線を上げたヤツは、コンマ一秒で再び視線を戻した。


「そう?まぁ、いいや。みんな顔上げて?」

どす黒いオーラを完全に消した智紘は、少し困ったようにヤツ等の顔を上げさせた。そんな智紘の様子に、ホッとため息をつくヤツ等。

「後で庭に行こうか」

《《《《うん!!!》》》》



フッと微笑む智紘とヤツ等の間の空気が和らいだ様子を見ていたイリスは、ホッとため息を吐く。

が。