ボソボソと仲間内で話す群れ。
思いっ切り聞こえているが、窒息死寸前の危機を乗り越えたばかりのイリスにはそれにツッコむ気力はなかった。




「大丈夫かぁ?イリスー」

グッタリと床に張り付き、思いっ切り息を吸い込んだイリスは、聞こえてきた元凶の声に、地獄の底から這い上がってくるゾンビのように手を伸ばし、智紘の腕を掴む。


《ち~ひぃ~ろぉぉおおお…
こんの、薄情者……ッ!!》


いつの間にか智紘は、室内の上質なソファーに座り、優雅にブラックコーヒーを啜っていた。


《お前の、お前のせいで僕は窒息するところだったんだぞ!!!救世主が現れなかったら確実に窒息してたから!!!あれで死んでたら、化けて出てやろうと思ったぞ!!》





「大丈夫、大丈夫。妖怪は簡単に死なない」

《そういう問題か!?》
「そういう問題だ」


前にも聞いたようなやり取りをして、腕にしがみつくイリスを引き剥がす。



《あ、そういえば、さっき助けてくれた人は…》

ポイッと投げ捨てられたイリスは、お礼を言っていないことに気づき、命の恩人を見る。


《先ほどは危ういところ、助けていただき感謝するぞ》
「……」
《…?おい?》

命の恩人に近づき、二足立ちをして、ぺこりとお辞儀をしたイリスだったが、相手の反応が全くないことに気づき、顔を上げる。男はうつむいたまま、体を震わせている。


《どうかしたのか?》

様子がおかしい男に触れようと、前足を近づけた瞬間。






「ちぃくぅぅぅうううううん!!!!久しぶりぃぃぃぃぃいいいいいいい!!!!!!!」