「…俺さー、アイツ…っていうか、あそこ嫌いなんだよ」
バイクを走らせる智紘にしがみついたイリスは、智紘の言葉に目を瞬かせた。


《それと何の関…》
「着いた」

イリスに被せるように呟いた智紘に、少々拗ねながら、智紘から飛び降り、顔を上げたイリスは、視界いっぱいに広がる建物に呆然とした。


《…ここは?》

「目的の場所」


目の前に広がるのは巨大なビル。
その入り口に向かってスタスタと歩いていく背中を見て、イリスは慌てて動き出した。

「イリス。早く来い。置いてくぞー」


くぁぁぁああ。とあくびをしている智紘に追いつくと、そのまま煌びやかなエレベーターに乗り込む。

チンッと音がして、扉が開く…と思った瞬間に、イリスの体は宙に浮いていた。

何が起きたのか、現状に頭がついていかないまま、ポイッと放り投げられ、柔らかい何かに受け止められた。






《《《《《いえぇぇええええい!!!!チヒロ、チヒロ、チヒロが帰ってきた!!!》》》》》







合唱し、キャッキャと騒ぎながらイリスを胴上げする群れ。その群れに押し上げられながら智紘に助けを求めようと、エレベーターを見ると、バッチリ扉は隙間なく閉じられていた。




《智紘ぉぉぉおおおおおお!!!》
すでに胴上げではなく、押しつぶされている。
涙ぐみながら血も涙もなく逃げた相棒の名を叫ぶイリスに、救世主が現れた。


「お前ら、そいつは智紘じゃないぞ」


低めのよく響く声にイリスを押しつぶしていた先ほどまでが嘘のように、群れがザッと引いた。


《ややっ!!何故このような場所に黒猫が…!?》
《チヒロかと思ったのに…》
《黒猫…》