「あー。ついに来たか」
イリスとの出会いから数週間が経ったある日。


震えだした携帯のディスプレイを見た智紘は、面倒くさそうに出かける準備をし始めた。

《どこかに行くのか?》


この数週間、智紘が買い物以外で部屋から出るのを目撃したことがなかったイリスは、不思議そうに智紘を眺めた。


「んー。そうそう。俺が日本に帰ってきてることがバレたらしー」

《‘日本に帰ってきている’?》


「あれ?言ってなかったっけ?お前と会った日に帰国したんだよ、俺」


適当にクローゼットから引っ張り出したパーカーを着ながら、イリスを見もせずに話す。

《聞いてない!!…あ、だから僕が住み着いていたにもかかわらず、一度も会ったことがなかったのか》


そんな姿に呆れたように呟くイリス。

「まぁ、2,3年は向こうにいたからな…」
《へぇ~》

日本以外の場所に行ったことがないイリスは、海の向こうの話を聞いてもピンと来ないのか、生返事をする。


《いってらっしゃ~い》


ヒラヒラと尻尾を振るイリスに、仕度を終えた智紘は、え?と首を傾げる。


「何言ってんの?イリスも当然一緒に行くんだよ」

にっこり笑ってイリスの尻尾を掴む。


《え?嫌…》

「行く。よね」


疑問符が付かない断定の言葉と、にこやかな表情とは裏腹に手に込められた力は、拒否を許さない。

《い…行きます!!行かせてください!!!》
「うん、行こうか」


それで良い。と開放された尻尾をさするイリスは、こいつを相棒に選んだのは早まったかな…と青ざめていた。








《でも、どうして僕を連れてきたんだ?久しぶりに誰かと会うんだろ?》