「百合香・・・！」


そう、須崎流の糸結界だ。


「紗夏さん、雅さんを本当に切り捨てたわけ？


・・・最後の日に少し動揺が見えたけどっ！」


「・・・百合香・・・


ありがとう・・・！」


「礼を言われる筋合いなんてないわよ！」


百合香は自身の目の前に糸結界を貼り、老婆へぶつける。


少々よろめいたものの、すぐに結界を破る。


「十分時間を稼げた。


ありがとう、百合香ちゃん。


さあ、離れて！」


私の背後から懐かしい声が聞こえる。


・・・雅さん！


私はとっさに後ろに飛び跳ねる。


「呪爆（しゅばく）！」


雅さんは地面に手を添え、言う。


すると老婆の足元で中規模の爆発が起きる。


老婆は瞬時に避け、ダメージはほとんど喰らっていない。


「・・・瞬発力が高い。


やはり広範囲攻撃をするべきか・・・


それともターゲットを絞るか・・・。」


雅さんは少々悩んだような顔をして装束の袂から短刀を取り出す。


短刀の刃の部分をなぞり、ブツブツと何かを唱えた。


すると短刀が青白く光り、うっすらと梅の模様が入る。


雅さんは短刀を握り直し、老婆のもとへありえないスピードで行く。


「・・・素晴らしいです。


あの男性は俊足（しゅんそく）技の持ち主の方ですね・・・。」


私の後ろから遙香と希美が顔を覗かせる。


「・・・帰りが遅いと思ったらこの状況です。


彼らにここを案内したのも私ですから。


・・・ふふ、よきお仲間をお持ちですね。


切り捨てたつもりでも着いてくるなんて。」


私はふふ、と少し笑った。


よきお仲間をお持ちですね、なんて言われたの初めてだから。


刹那、空気がピンと張りつめる。


すぐにいつもの空気へ変わったが。


「ぐ・・・っ・・う・・あ・・・」


雅さんが左肩から血を流している。


老婆のしわだらけの手には真っ赤な血がついている。


・・・まさか老婆の手で雅さんの肩を貫いた・・？


「雅さんっ！」


「僕は・・大丈夫・・・だから・・待ってて・・・！」


苦しそうに言う。


見ているこっちも肩が痛くなる。


雅さんは右手に持った短刀をギュッと握り直し、老婆に襲い掛かる。


ひょいと右手に老婆はかわす。


雅さんは即座に短刀を左手に持ち直し、右足を軸にして再び切り掛かる。


老婆の腕に刃が食い込み、血がドクドクと溢れ出る。


雅さんは食い込んだ刃を抜こうとせず、老婆の腕を切断しようと力を込めていた。


しばらく力を込め、老婆の腕が切り落とされる。


「・・・ぁ・・・！？」


老婆の腕には本来骨があるはずの場所に緑色の太いツタのようなものが入っていた。