「でも華子さん。
そこまで分かってて、なんでみゅーになんにも言わなかったんですか?
お母さんにも平謝りで……」
長椅子の目の前にある2台のエレベーターは、忙しそうに上へ下へと人や荷物を運んでいる。チンという音と共に開いたドアからは、お見舞いに来たのだろうか、2歳位の足のおぼつかない男の子と若いお母さんが出てきた。ちょろちょろと歩くその子供を視線で追いながら、華子さんは言った。
「子リスは入院したことある?
入院生活ってさ、そりゃあストレスたまるのよ。
まあ、病気なんだから仕方ないって言われたら終わりだけどね。
退屈だし……孤独だし……
猫の場合は若いんだからなおさらだよね。
まっ、ちょっといたずらしたくなるのも、分からなくはないでしょ。
でもさ結局、天罰くだったんでしょ。
退院、延びたっていうじゃない。
猫も反省してるって。
それでいいのよ」
「ふーん。
華子さんって患者さん に・は・寛大なんですねー」
その寛大さを数パーセントでいいから私にもくれないものかと、願いを込めて言ってみたが、華子さんの心にはかすりもしない。華子さんは『今頃気づいたのかい』とでも言いたげに、首を縦に振った。
半分飲んだカフェオレのふたを閉め、華子さんは職場に戻ろうと立ち上がった。「じゃあね」と、挨拶は相変わらず素っ気ない。そんな華子さんに、伝えたい事がある。
「あっ、そうだ。
わたしね、華子さんに報告したいことがあって。
わたし……将来の夢?
うーん、目標みたいなものができたんです。
この夏、華子さんと仕事して、まっ色々あって……
でもそれで見つけられたんです、夢が」
私の言葉を聞き、戦闘に向かう戦士の勇ましい顔がすっと穏やかに変化した。
「ふーん、そうかい。
うん、うん、分かるよ。
仕方ないよね。
あたしみたいにさ、出来るナースと働いてたら、こんな看護師になりたいなーって憧れる気持ちになるのもね。
まあね、あんたの地に着きそうな学力でも、奇跡的に入れる看護学校がもしかしたらあるかもしれないから、死ぬ気で勉強するんだよ」
そう言うと、自慢気に胸を張る華子さん。けれども、私は顔の前で左右に手を振った。
「いえいえ、違います。
そりゃあ、看護師は立派な職業だと思うけど、華子さんみたいになりたいなんて天地がひっくりかえっても思いません」
華子さんは一瞬でムッとし、尋ねた。
「じゃあ、なんなのよ。
子リスの夢って」
そこまで分かってて、なんでみゅーになんにも言わなかったんですか?
お母さんにも平謝りで……」
長椅子の目の前にある2台のエレベーターは、忙しそうに上へ下へと人や荷物を運んでいる。チンという音と共に開いたドアからは、お見舞いに来たのだろうか、2歳位の足のおぼつかない男の子と若いお母さんが出てきた。ちょろちょろと歩くその子供を視線で追いながら、華子さんは言った。
「子リスは入院したことある?
入院生活ってさ、そりゃあストレスたまるのよ。
まあ、病気なんだから仕方ないって言われたら終わりだけどね。
退屈だし……孤独だし……
猫の場合は若いんだからなおさらだよね。
まっ、ちょっといたずらしたくなるのも、分からなくはないでしょ。
でもさ結局、天罰くだったんでしょ。
退院、延びたっていうじゃない。
猫も反省してるって。
それでいいのよ」
「ふーん。
華子さんって患者さん に・は・寛大なんですねー」
その寛大さを数パーセントでいいから私にもくれないものかと、願いを込めて言ってみたが、華子さんの心にはかすりもしない。華子さんは『今頃気づいたのかい』とでも言いたげに、首を縦に振った。
半分飲んだカフェオレのふたを閉め、華子さんは職場に戻ろうと立ち上がった。「じゃあね」と、挨拶は相変わらず素っ気ない。そんな華子さんに、伝えたい事がある。
「あっ、そうだ。
わたしね、華子さんに報告したいことがあって。
わたし……将来の夢?
うーん、目標みたいなものができたんです。
この夏、華子さんと仕事して、まっ色々あって……
でもそれで見つけられたんです、夢が」
私の言葉を聞き、戦闘に向かう戦士の勇ましい顔がすっと穏やかに変化した。
「ふーん、そうかい。
うん、うん、分かるよ。
仕方ないよね。
あたしみたいにさ、出来るナースと働いてたら、こんな看護師になりたいなーって憧れる気持ちになるのもね。
まあね、あんたの地に着きそうな学力でも、奇跡的に入れる看護学校がもしかしたらあるかもしれないから、死ぬ気で勉強するんだよ」
そう言うと、自慢気に胸を張る華子さん。けれども、私は顔の前で左右に手を振った。
「いえいえ、違います。
そりゃあ、看護師は立派な職業だと思うけど、華子さんみたいになりたいなんて天地がひっくりかえっても思いません」
華子さんは一瞬でムッとし、尋ねた。
「じゃあ、なんなのよ。
子リスの夢って」
