カリス姫の夏

「そっかー。
じゃあ、私できるだけここ来るよ。
退院してからも会おうよ。
わたしね『ナイトの国』……
わたしが所属してたSNSなんだけど、それがなくなっちゃってさ、本心言い合える友達もいないんだよね。
織絵ルーナの情報交換とかもする相手も、いなくって。
やっぱり『ナイトの国』が無くなったのは痛かったなー」


私が両腕を椅子に立て前傾姿勢で身体を前後に揺らすと、みゅーはたたみかけるように告白した。


「ふーん、でもさ『ナイトの国』が無くなったこと、そんな残念がらなくてもいいんじゃない?
だって、こんなことにならなくっても、莉栖花は『ナイトの国』から退去させられる運命だったんだし。
仕方ないよね、私達リアルで会っちゃったんだから。

だから、私もね」


リアルで会っちゃった?
私達?


「なっ……なに?
私もって?
えっ?
みゅ………みゅーって……
えーー?!」


みゅーは何かを隠すように顔を背け、窓の外を見た。


「美と優雅の女神カリス……ね。
やっぱりさ、自分が手に入れたい物、手に入れられない物をハンドルネームにしちゃうのかな。無い物ねだりだよね。

私もね、病気になる前までは大好きだったんだよね。
でも、もう食べられないなー、いちご大福」


『ナイトの国』でズバズバ言いたい事を言う人気者が、リンクしてみゅーと重なった。そのハンドルネームは『いちご大福』


「いちご大福?!
いちご大福⁈!
みゅっ……みゅーって、いちご大福なの?」


人差し指をみゅーに向け、あんぐりと口を開けたままの私に、みゅーはにっこり笑って肯定した。


「知ってたの?!みゅーは。
ええぇー⁈
いつから?」


「ええっーーとね、夏休み入ってすぐ、ここに患者さん送って来たでしょ。
ほら、『ナイトの国』のみんなにナビされて。
私もあの時、ちょうど見てて。
あれー、これってここの病院じゃない⁈って思ったのよ。

うわー、着く着くって思ったら、もう居ても立ってもいられなくなっちゃって、正面玄関に見に行ったの」


みゅーの着る真っ赤なパジャマのサクランボが、弾むように揺れた。その鮮やかな赤には見覚えがある。


「あーー!!
あの時の赤い残像!!」