カリス姫の夏

「知りたい?」


挑むような強い視線のみゅーに、恐る恐るうなづいた。


「ここってさ、電子カルテ使ってて。
うーん、カルテがね、紙じゃなくてパソコンなのよ。
最近増えてるみたいよ。

さすがに電子カルテは入れなかったんだけど……

いや、ちょっと試しただけよ。

私の情報作ったパソコンは普通ので、セキュリティ甘かったんだ。

パソコンの使い方は、カルテと同じでね。カルテ使う職員……お医者さんとか看護師さんとかにね、独りずつIDが渡されるの。こんなキャッシュカードみたいなやつで。

それが、アルファベットと数字を組み合わせた10ケタの無秩序な羅列でさ、そんなの憶えられないじゃない。だからね、みんな名札の裏に入れとくのよ。

いや、私だって覚えられないよ。
そんな一目見ただけじゃあね。
でもさ、私達には超小型映像記憶装置っていう物があるじゃない」

みゅーの大胆な発言に、私は更に身を乗り出した。

「スマホで写真撮ったの?
それって隠し撮りじゃないの?
マズイでしょ」


「いや、たまたま手が滑ったっていうか……間違って操作しちゃったっていうか……

でさ、本当はそれにパスワードも入れるんだけど……」


「ぎぃやーーーー!!!」


急に上げられた私の叫び声に、みゅーは目を丸くした。


「どうしたの?
莉栖花」


私は両耳をふさぎ、なにも無い床を見ながら、呪いにかけられた村人のようにブツブツと繰り返した。


「聞かない。
私、聞かない。
聞いたら同罪になる。
私も同罪になっちゃう」


「大げさだなー。
人を犯罪者みたいに。
こんなのギリギリ……アウトかな。
ふふふふふっ」

と笑顔のみゅーは、事の重大さを理解していないらしい。


「ふふふっじゃないよ。
あの後、大変だったんだから。
華子さんだって、あんなに謝って………」


その時、華子さんの言葉が頭によぎった。
『あの子は猫、大猫よ。
あるいはタヌキかもね』


華子さんの言葉とその時の意味あり気な表情が、謎を解明した。


「あー、華子さん、知ってたのかも」


「へー、さすがだね。
見抜かれてたんだ。

でも、もうやんないよ。
絶対ね。
約束する。
やっぱり、ヤバいよね。

結局、自分の首しめることになっちゃったし。
退院、半月延びちゃって……」


みゅーは全て受け入れたように、口元だけ笑った表情を作った。