カリス姫の夏

読み終えた私は、矢印を『更新』に合わせた。けれども、どうしてもマウスの左ボタンが押せない。

しばらく考え込むと、矢印はわずかに下に移動し『削除』に合わせられた。
そしてボタンを押す。


伝わらない。
デジタルの文字の羅列では、私の気持ちは伝わらない。

どんなに言葉を尽くしても、気持ちを込めても、絵文字を使っても、私の本心、本当に伝えたいニュアンス、空気のようなものは伝わらない。
それどころか、間違って、あるいは誤解されて伝わる恐れさえある。


これほど通信手段が発達した現代でさえ、私が本当に伝えたいことが1ミリも伝えられない絶望感に、私の心はからっぽだった。


しばらく、何も書かれていないブログの画面を見つめた。指一本動かすことも、できない。

やがて、パソコンは節電しようと画面を暗くした。用がないなら消せよと、尻をたたくように。


意を決し、パソコンの操作を始めた。ブログとツイッターを退会する手続きは、案外簡単だった。


楽しく夢のあったツール。けれども、重く私を悩ませたツール。私はそれと別れを告げた。


パソコンを閉じると、私は窓の近くに立っていた。カーテンの隙間から朝日が差し込んでいる。

そう、こちらは東向き。お父さんが、朝日を浴びて元気に学校に行けるよう願って設置された窓だ。


おもいっきり勢いよく、カーテンを開けた。サーっと音をたて開いたカーテンからふわふわと舞い落ちたのは、綿ぼこり。そして、登ったばかりの朝日が私の顔を赤く染める。

サッシ窓を全開にすると、機械的に冷やされていた部屋に、自然な空気が押し寄せた。

私はその外気を、肺いっぱいに吸い込んだ。


遅刻ギリギリですべり込んだ夏が、私の中に満ちていく。


思いっきり吸い込んだ空気を口をすぼめ、細く長く全て吐きだした。重かった心も、嫌いだった自分自身も、全て身体から出しきるように。