カリス姫の夏

『ナイトの国のみなさん。
はじめまして。
私がナイトの国の管理者、ナイトこと岸本俊太郎です。

この度は、私の作ったサイトにより各個人を深く傷つけ、また、このサイトのご利用者様に多大なご迷惑をおかけしましたこと、深くお詫び申し上げます。

本当に申し訳ありませんでした。

私がこのサイトを開設したのは、ほんの些細な夢を叶えるためでした。

私の夢は、このサイトが日常会話を楽しむ場になればいい、それだけの事でした。

息子の不登校に悩む母親が女子高生のふりをして入国する。話している相手はもしかしたらその息子で、2人は気づかずに楽しく学生トークしている。

母親の介護でめったに外出できない女性が、今日の夕食何にしようか?なんて尋ねる。返事をしたのは入院中で食事制限のある若者で、カレーがいいんじゃない、なんて自分では絶対食べられないものをリクエストする。

そんな些細な……
本当に些細な日常の断片を、夢見ていたのです。

実際がどうだったのかは、今になっても分かりません。
でも、そう想像するだけで私はわくわくしていました。

それは、私自身が誰よりも現実から目を背けたいと願っていたからです。

だからこそ、全身全霊をかけルールを破る人がいないか監視してきました。リアルと切り離してさえいれば、トラブルは生まれないと思っていたのです。私の浅はかさです。

なぜこのようなことが起きたのか、丸一日考えました。
きっと私達は、欲張り過ぎたのだと思います。

カリス姫に喜んでもらい、感謝されることに快感を覚えたのでしょう。
もっと助けたい、もっと喜んで欲しいと願いすぎました。

人に喜んでもらえるというのは、麻薬みたいなものですね。
私のように人の役に立つことが極端に少ない人間にとっては、尚更です。

だからこそ、このサイトの危うさに気づいていながら、止められなかった。
やはり、管理者である私の全責任です。

謝っても謝りきれませんが、この不完全な私に免じて最後にどうか願いを聞いていただきたい。

このサイトに関係したことでさらされている個人情報やバッシングを、今すぐ取り消してください。

代わりに、私の個人情報を流していただいてかまいません。

私は1979年2月20日生まれ。
神奈川県川崎市宮前区………』



ロボットのように口だけ動かし、話の内容とは裏腹に表情ひとつ変えないナイトの姿が辛すぎて、私は正視できなかった。


「やめて。
ナイト、もうやめて」