いつのまにか、足元に「ソナタ」がやって来て、りっさんをじっと見ていた。それから、私の顔を見た。私は「ソナタ」を抱き上げた。


「りっさん。この猫、ソナタっていうの。熱情ソナタから取ったのよ。りっさんが弾く熱情ソナタ、私はずっと大好きだった……りっさんのことも」


私は一気に言ってしまってから、顔を赤らめた。「ソナタ」は、りっさんに抱いてほしいようにニャーと甘え声で鳴いた。


りっさんは、「ソナタ」を抱き上げ、膝の上に乗せた。そして、毛並みを整えるように、細い指を櫛代わりにして毛を梳きながら言った。


「ありがとう、お嬢さん。私も、ですよ」


りっさんは微笑んでいた。いつも浮かべていた悲しい笑みではなく、心から温められるような優しい笑顔だった。


「来年からは、『ソナタ』のために、お邪魔して調律させていただきますよ」


そう言うと、りっさんは、まずはこの曲を、と「猫ふんじゃった」を軽いタッチで弾いた。それを聞いた「ソナタ」は、しっぽを揺らして喜んでいるようだった。