ポロン、ポロンと鍵盤が叩かれる音がし始めた。私は邪魔をしない。ただ、リビングで彼の仕事の様子を想像するだけだ。私は飼い猫の「ソナタ」を抱きしめて、父が出ていって誰もいなくなったリビングの主になった。


もうすぐかな、と思っていたとき、急に辺りが静かになった。そして、かすかに指をポキポキと鳴らす音がした。


これが、りっさんのリサイタルの開幕ベルだ。


私は、「ソナタ」を抱いて、そっとピアノ室へ入った。