「何だよ。人が入ってくるなりむせやがって」
アンタがタイミング良く入ってきたからだよ!!
「……いや、何もないよ」
とか言いながら目を合わせないのは何かある証拠で。
不自然なのは自分でも分かっているけどこればかりはどうしようもない。
迫られた気まずさと、バレるかもしれないという妙なスリル。
目を合わせると変な顔を晒してしまいそうで、士騎の方を向けない。
「ま、いいけど」
一向に目を合わせようとしない私を見て諦めたのか、士騎は不満げな声を洩らしながらキッチンへと消えていく。
すぐ傍を通り過ぎていった士騎を横目でチラ見して、はぁ、と心の中で深い溜め息を吐き出した。
……出だしからこれってどうなの。
すでに疲れ気味なんですけど。
時間が経てばきっと普段の平静さを取り戻すんだろうけど、すぐには無理だ。
なるべく士騎の方を見ないようにしないと。


