っていうか、あの状況で口説かれるなんて誰が思う?
動揺して当然じゃない?
いつもの私なら、多分、次の日にはしれっとしてるだろうけど、今回ばかりはそういう訳にはいかなかった。
翌日に会う気まずさってのもあるけれど、そんなことよりも“レイ”が“私”だとバレないかっていう方が心配だったから。
昨日の様子だと大丈夫そうだけど、もしかしたら何かの弾みで同一人物だと気付くかもしれない。
まぁ、昨日は化粧しててマスクもしてたから大丈夫だとは思うけど。
でも、士騎は綺人と違って洞察力ありそうだからなぁ。
って、あぁ、もう!
昨日から士騎のことばっか考えてて頭がおかしくなりそうだ。
不審に思われない程度に小さく深呼吸し、気を紛らわせるようにコーヒーを一気飲みする。
と、その時。
外に通じるドアがガチャリと開いた。
「もう揃ってんのか」
「……っ、ゴホッゴホッ!」
「ちょ、レイくん大丈夫っ!?」
「だ、大丈夫、」
先頭を切って入ってきたのは今一番会いたくなかった士騎で。
不覚にもその声を聞いただけでむせてしまった。