白銀のヴィーナス


「……ハ…ァッ、」


再び止まったのは、BARから少し離れた路地裏。


スナックやBARが連なるその路地裏は、一本中へ入れば私達の姿を簡単に隠してくれる持って来いの場所だった。



「……ふぅ」


ビルの壁に寄りかかり、小さく深呼吸して呼吸を整える。




此処まで来ればもう大丈夫だろう。

あとは自分で綺人かBD幹部に連絡するはず。



そう思った私は、呼吸を乱したまま士騎の顔も見ずにくるりと踵を返した。



「オイッ!」

「……ッ、」



けれど、それは士騎の手によって阻止されてしまった。



掴まれた右腕に走る鈍い痛み。


息を呑むほどの力に、不覚にも足がその場に止まってしまう。





「──お前、誰だ?」


「……っ、」



士騎の口から吐き出されたその言葉に一瞬呼吸が停止した。


何故なら、その問い掛けは今、私が一番聞かれたくないことだったから。



けど、今の問い掛けで一つだけ分かったことがあった。


それは、私の正体が士騎にバレていないということ。


誰だと聞いたことが何よりの証拠だ。



「……」


バレてないのなら、バレる前にトンズラするしかない。



一時の沈黙の末、私は掴まれた腕を力任せに思いっきり振り払ってその場から駆け出した。


けれど。



「逃げんじゃねぇよ」



そう簡単にはいかず、再び掴まれた右腕。