鞄は、リビングのソファーの上にあった。

あっさり見つけてしまったのが悔しい。

もっともっと、先生の心に触れていたかった。

先生の戯れに、付き合っていたかったよ……。



鞄を開けて、中を探る。

先生の鞄だ。

いつも、いつも。

先生はこれを提げて、学校へ通勤していた。

中には、指導要領や教科書など、そのままに入っていて。

ああ、先生だなあ、と思う。

先生をしていたんだなあ、この人は―――



ペンケースを見付けて、手に取る。

革製の、少し高そうなペンケース。


それを胸に抱いてから、ゆっくりとチャックを開けた。


中の紙切れは、思っていたよりずっと小さかった。

先生は、私に何を見付けてほしかったの―――――?







『明日』







そこには、ただそれだけが書かれていた。



何これ、最後の最後で冗談?

今までずっと、次に探す場所が書いてあったのに。

最後は探せないもの、ってことで、私を笑わせる気?



「明日を、探せ」なんて。


「明日を」


「明日を、探す……?」



はっとして、その文字を見る。

先生が、自分にはないと言った明日。

私には、明日があるのが羨ましいと言ったね。



「先生、先生が私に見つけてほしかったのは、『明日』ですか?――――――」



つぶやいた私を肯定するように。

強い日差しが、リビングの窓から差し込んだ。


私の頬を、次から次へと涙が伝う。

先生、先生。

先生は、明日をくれたんだね。



自分にはないと嘆くのではなくて。

私に、明日をくれたんだね。

先生の分まで―――


そして、私は最後に、と言われてた手紙を、ゆっくりゆっくり開いた。