試合が終わった。

結果は、歩のチームの大勝だ。

私は、階段を駆け下りて。

すぐに、歩の元に走った。


歩はどこ?

私の歩。

私の愛しい、かけがえのないたった一人の弟。

違う人を父親に持つ私たちだけれど、この繋がりは誰にも負けない。

お姉ちゃんは、歩のことを誇りに思う。

世界で一番、尊敬してるよ―――


ふと見ると、人だかりができていた。

みんな、笑ってる。

笑顔で、おめでとうって。

ありがとうって言っている。

その中心にいるのは―――



「歩!」


「莉子姉!」



人だかりの合間をぬって、その小さな勇者は、私の元に一目散に駆けてきた。

そして、私に飛びつく。

歩は、日なたのにおいに包まれている。



「……みっちゃんにも、見てほしかった。」



歩は、そうつぶやいた。

先生が消えてから、歩が跡部先生のことに触れたのは、これが初めてだった。

その言い方は、まるで、すべて分かっているみたいで。



「お姉ちゃんも、……お姉ちゃんも歩のこと、先生に、見せてあげたかった―――」



そう声に出したら、涙が止まらなくなって。

歩も私も、お互いを抱きしめながら声を上げて泣いた。

さっきまで歩を取り囲んでいた人たちが、何事だろうと見つめるのも構わず。

先生がいなくなってから、初めて大声で泣いた。

声が枯れるまで泣いたんだ。



「歩、ありがと。」


「莉子姉こそ、ありがと!……今まで、ほんとにありがとう。」



急に大人になった歩がありがとう、と繰り返して。

私は感動に、咽び泣いてしまう。

これまでの苦労なんて、吹き飛んでしまうような歩の言葉だった。



「かっこいい男になるって、みっちゃんと約束したから。」


「うん。」


「だから、これからは心配しないで、莉子姉。……僕が、莉子姉を守るから。」


「うん。……ありがとう、歩!」



私たちは、もう大丈夫だ。

自分の足で、生きていける。

跡部先生がくれたんだ。

私たち兄弟に、「明日」を―――


大事な大事な弟は、太陽のような笑みをこぼしながら、監督の元に駆けていった。