何かの物音に目が覚める。

さっきよりは大分よくなった気がする。



「すまん、起こしたか?」



先生に覗きこまれて、一瞬焦る。

そうか、歩のごはんとか、全部先生に任せて寝ちゃったんだ。



「どうだ、具合は。」


「……さっきより、よくなったよ。」


「そうか。ならよかった。」



突然、頬に冷たいものが当たる。



「つめたっ!」



ふふ、と笑う先生が持っているのは、アイスだ。



「体を冷やすのはよくないけど、熱出た時の定番はこれだろ。」



わざわざ買ってきてくれたんだ―――



「お粥も作ったんだけど、莉子、よく寝てたから。今温め直すな。」



ふっと視界が霞む。

自分でも思ってもみなかったのに。

意思に反して、ぱたぱたと涙がこぼれる。



「おい、どうした莉子。」


「……何でもないよ。」


「苦しいか?」



そう言って、私の額に冷たい手を載せる先生。

私はその手を両手で握って、頬を寄せた。



「……ありがとう、先生。」


「何だ、風邪ひいて弱気になってんの?大丈夫だ、死なないから。」



先生は、もう片方の手で私の頭を撫でると、頬の涙を拭ってくれた。



「お粥、食べるだろ?」


「うん。」



先生の優しさに埋もれる心地よさ。

どんなときにも、救いの手を差し伸べてくれる、スーパーマンみたいな先生。

私は、先生を好きになる資格すらないのかもしれない。


いつか、自分の足で立てるようになって、先生と対等に向き合えたら。

そしたら、あなたのことを好きになってもいいですか?


そんなことを思いながら、先生の背中を見送った。