「ねえ、莉子姉。」


「何ー?歩。」



カレーを食べながら、歩が言った。



「さっき、莉子姉だれと帰ってきたの?」


「え?」



はっとする。

歩、見てたんだ。



「あの人ねー、私の先生。」


「先生?何で先生といっしょなの?」


「家、近くなの。……そこ。」



窓を指差すと、歩は興味深そうに窓の向こうを見た。



「あっちのおうち?」


「うん。」


「何ていう先生?」


「跡部先生。」


「へー。」



歩が誰かに興味を持つなんて、珍しい。

どうしたんだろう。

私を取られたと思って、悔しいのだろうか。

そんなことを思っていたら、歩は思いがけないことを言った。



「跡部先生、うちに来る?」


「え?」


「一緒に遊べる?」



無邪気な歩に、私はふっと笑う。



「どうかなー。跡部先生遊んでくれるかなあ?」



歩と先生か。

私は、初めてそんな場面を想像してみた。

予想もつかなかったコンビだけど……。

あの怖い跡部先生。

でも、もしかしたら小さい子どもには、もっと優しい顔を見せるのかもしれない。

その表情を、なんだか少し見てみたいような気もした。



「今度頼んでみるね。跡部先生、うちに来ませんかー、って。」


「うん!」



何だか、話したこともないくせに、歩は随分先生をお気に入りらしい。

私はちょっぴり悔しくなる。



「歩ー、カレーおいしい?」


「うん、おいしいよっ!」


「そっか。よかったね。」


「お姉ちゃんは、跡部先生のこと好きなの?」


「え―――?」



急にそう問われて、頭が真っ白になった。



「そ、そんなわけないじゃん。」


「ふーん。仲良さそうだったじゃん。」


「もう、歩ったら!」



私がはたこうとすると、歩はすばしこく逃げる。

そして、けたけたと笑いだす。

私もつられて笑いながら思った。



そんなわけないじゃん。

私のバイト、クビにさせた先生のことなんて。



この時はまだ、本気でそう思っていたんだ。

少なくとも私は、とてもじゃないけど恋なんて、している余裕はなかったから―――