「新庄、おい新庄!」


「……ふぁい、」


「起きろって!」



放課後の進路資料室。

毎日の疲れが積み重なって、どうしたってうつらうつらしてしまう。

せっかく説明してくれる先生に、悪いって分かっているのに。



「大丈夫か、新庄。なんか顔色悪いぞ。頑張りすぎてないか?」


「え、そんなことないよ。」


「バイト、減らすか?」


「いいっていいって!」


「だって、ちゃんと寝てないだろお前。」


「大丈夫!」



先生の心配性。

ほんっとに心配性なんだから。



「それより先生だって、なんか顔色悪いよ。」


「それはお前の出来が悪いからだろう。」



即答。

はいはい、分かってますよーだ。

どんなに努力しても、こんなに頑張っても。

まだまだ、足りないってこと。



「あと3ページ読んだら帰るぞ。今日は、仕方がない。送ってく。」


「へ?いいの?」


「特別だぞ!いつもだと、問題になるからな!」


「先生と噂になるなんてなー!」


「ばか!いいから読め!」



先生と、噂―――


確かに、もしも今。

うちに出入りする跡部先生の姿を、見た人がいたなら。

確実に問題になるだろうな。

先生のファンならなおさら。



「いいの?先生。」


「何が。」


「もしも、もしも私と噂になっても……いいの?」



跡部先生は、ふと返答に詰まった。

何て答えようか悩んでるみたいに、視線を下にずらして。


そしてしばらくすると、私をまっすぐに見つめて、先生は言ったんだ。



「ああ。そのくらいの覚悟はできてる。」



―――その返事、どういう意味?



びっくりして目を見開いた私から、そっと視線を外して。

先生は、ため息をつくみたいに肩を落とした。


その悩ましげな表情に、思わずどきっとして。

なんだか恥ずかしくなって、私も先生から視線をずらした。



「……帰るか、莉子。」


「……うん。」



微妙な雰囲気を引きずったまま。

私は先生の背を追いかけて、進路資料室を後にした。