それからというもの。

週末は、誘わなくてもうちに来るようになった先生。

私が出掛けても、歩の面倒を見ていてくれる。

そんな跡部先生に甘えて、私は安心してバイトに出掛けられた。


今まで、歩を一人にしておくことが、とても気がかりだったんだ。



カランカラン。



「いらっしゃいませ。」



このお店は、一週間前から通っている。

頼まれたリストの中の、一番上にあるお店。

ここでは、ホットミルクのレシピを調べることになっていた。


実は、このお店に最初に来たとき、私はいきなり聞いてみたんだ。

このホットミルクが好みの味なのだけれど、レシピを教えてくれないかと。

でも、教えてくれるはずもなく。

どうしたらいいか分からないまま、一週間が経ってしまった。

毎日、この喫茶店に来て、ホットミルクだけを注文する私。

お店の中でも、目立っている方だと思う。



「ご注文はお決まりですか?」



いつもの人だ。

カフェエプロンが良く似合う、男の子。

上品な雰囲気が、このカフェにもよく似合っている。



「ホットミルクで。」



注文すると、彼はふっと口元を緩めた。



「お好きなんですね。」


「はい。」



つられて笑うと、彼は目を細めた。


それから、しばらくたってホットミルクが運ばれて。

テーブルに置かれていった。

その真っ白なカップを、何気なく持ち上げたとき。

その下に、メモが置いてあるのを見つけた。

はっとして裏返す。



『今度、どこかにご一緒しませんか?』



その言葉と、連絡先の文字。


――どうしよう。


その時、私はやっと、この仕事の本当の意味に気付いたんだ。

オーナーが、『可愛い莉子ちゃんならできるよ。』と言った意味にも。


ただのお客さんに、レシピなんて教えてくれるはずもない。

それなら、どうしたら教えてもらえる?

私は、どうにかしてこのお店の人の、懐に入らなくてはならないのだ。

そう、それはどんな手段を使っても。



顔を上げると、さっきの店員さんがじっと私を見つめていた。

目が合うと、にこっと笑う。



一瞬ためらった後、私も。



彼に親しげな微笑みを返して見せたんだ―――