5年前、先生に買ってもらった貝殻のペンダント。

ずっと、大事にしていたけれど。


今日は、手放そうと思ってここに来た。


先生と、歩いた海岸。

ここで、先生と花火をした。

ぽとりと落ちた線香花火に、不吉な予感を覚えた。

先生に、好きだと伝えた。

真夜中まで、先生とただ抱き合っていた。


ここなら、思い出を葬るのに合っている気がして。


海を眺めていたら、知らずのうちに涙が出てきた。

もう忘れたはずの感情が、くっきりと蘇る。

だけど、私は区切りをつけなくてはならない。

悲しい思い出に。


ペンダントをじっと見る。

私の髪を持ち上げて、これをつけてくれた先生。

金具がなかなか留められなくて、手間取っていた。

そんな先生が、確かにあのとき、私の隣にいたことを……。



「さようなら。」



つぶやいて、ペンダントを片手で握りしめた。

力を込めて、できるだけ遠くへ。

波間に紛れてしまうように―――





だけど、だけど……。




そうできなかった。

何度も投げようとしたのに。


結局、ペンダントは私の手の中にあった。


先生とのことを過去にできたはずなのに。

すべてを棄てられたわけじゃない。

それに、棄てていいものではなかったのだ。



「ごめんね、先生。……芳樹さん。」



私は小さくつぶやいて、ペンダントを大事に鞄に仕舞った。