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「はー、どー、そー、んー……。
……めぇー」
ナポレオンは意味不明の呪文を唱えながら、なにやら憎らしげに葱を切り刻む。
はどそん、と言ったから、おそらく誰かの名前だろう。
「ベルナドット、ベルティエ、あと、ええっと……」
ベルナドットといいベルティエといい、ナポレオンの側近にはベルが多いらしい。
しかもナポレオンときたら、どうやら葱を嫌いな人物に見たてて切り刻んでいる。
丑の刻参りしてる女の人みたいだ。
「なんか急に元気になったね」
つぶやいたあたしに、ナポレオンは葱に向けていた視線をあたしに投げる。
「元気なものか。
いまは恨みを込めて切っておるのだ」
「恨みって……」
「ハドソン・ローと、ベルナドットとベルティエと、その他もろもろ。
あ、あとフェリポーもいるな」
「昔の知り合い?」
「ベルナドットとベルティエは我が輩の元仲間。
フェリポーは士官学校時代のいじめっ子。
でもってハドソンは………」
口を開き、ナポレオンはさらに悔しげに眉を歪める。
忌まわしいことでも思い出したらしい。
「……むきゃーっ‼
いま思い出してもっ、ほんと頭くる!
ハドソンめ!」
……いったい何があった?
そばで聞いてるあたしには、全くわからない。
せいぜい、彼がそのハドソンなる人によって嫌な目に遭わされたことだけしか、ナポレオンの様子から読み取れない。

