隣の部屋のナポレオンー学生・夏verー




いつもの「ふむ」や「ほう」といった目上の者が口にするような言葉が、いまはない。

相当弱ってるな……。


「んで、大っきい器に水と氷を入れて、その中に茹でた素麺をいれる」


あたしは、ぼんやりとした目をしながら「ああ……うん……承知した」と聞いていなさそうな返事をしたナポレオンを背中に小棚を開ける。

楕円形の器と椀をひとつずつ取り出し、台の上に置く。


「んで、汁は?お汁の素ある?」

「オツユ……?なんだそれは。
女の名前か?」

「ちゃうわ」


確かに昔は、女の子のこと「お」をつけて読んでたけど、だいぶ昔の話だし。

ここまで来ると、もう素麺どころの話じゃないんじゃないだろうか。


「素麺をつけるだし汁みたいなやつ。
あと胡麻とか梅とか、葱を入れても美味しいわね」

「我が輩、オツユとやらは持っておらんぞ」

「なら、うちにあるのを貸したげる。
胡麻とか葱はない?」

「葱なら、押し入れの中にたくさんある。
葱ならいけるぞ」

「なら、それを千切りにしよっか」


そういえば、フランスに葱なんてあったかな?

玉ねぎとかならありそうだけど。

フランスの葱料理って聞いたことないし、もしかしたら、転生してから好きになった感じかもしれない。