「緋奈子よ、なんか鼻息荒いぞ」

「気のせいよ、気のせい」


誤魔化すあたしをみて、待田先生は頬を膨らましている。

ちょうど「うぷぷ……」と笑を堪えている感じで。


あ、見抜かれたわ。


なんとなくそう感じた。

聡明な外交官と名高いだけに、洞察力というものがあるらしい。


「おっと」


そこで、今まで忍び笑いをしていた待田先生が、腕時計に目をやった。


「では、そろそろ五限目が始まってしまいますゆえ。
また機会があれば、お茶でもいたしましょう、陛下」

「べー」


颯爽と去ってゆく待田先生に舌を出し、ナポレオンはドアからそっぽを向いてしまった。


「ナポレオン……(いくら襲われかけたとはいえ)昔の仲間でしょ」

「あんなの、仲間ではない。
仲間と言えばもっと、ブーリエンヌとかランヌとか、あそこらへんだ」


ヌばっかだな。

まあフランスの名前だし、こっちでいう「たかし」とか「ひさし」みたいな感じなんだろうが。


「それにしても、奴までこの世界に蘇って来ておったとは心外だ」

「なぜかあんたの時代の人だし」

「あ、そうだ!
もういちど言っておくが、あの男を相手にするときは、少し警戒しておけよ。
あいつはとんでもない好色家だからな」


それさっきも聞いた。

でもね。









……あんたはあたしより、(狙われてる)自分の心配をすべきだよ。