そして無理やりに、愚痴を飲み込んだふうに喉を鳴らした。


「……ところで、緋奈子よ」

「なに?」

「先ほど、ものすごい形相でこちらに入って来たが、なぜあのような必死なツラをしておったのだ?」


ナポレオンはあたしが忘れかけていたことをついて来た。

待田先生に襲われそうになってるのかな、と思って。


……とは、もちろん言えはしない。


そうとも。

あたしの中に眠るモノは、もうとっくにしまいこんだはずなの。

中学の時に。

冷静になってみれば、なんて馬鹿なんだろう、あたしは。

今はイケメンとはいえ、本性はチビのおっさんと老獪の政治家なのよ?

大丈夫。

あたしはそんなことで興奮したりはしない。


「……いや、走って来たから、疲れてただけだけど?」