隣の部屋のナポレオンー学生・夏verー





「陛下に緋奈子どのも。
そう気を張らず、ゆるりとされればいい」

「はあ……というか、タイユランさんは先生ですし、むしろ敬語を使うのはこっちなんですが」

「タレーランです」


待田先生はそこだけ強調し、長い足を組む。


「おっと、ずいぶんと話がそれてしまいましたな。
緋奈子どの、この話はくれぐれもご内密に」

「いや、話をしたところで、あたしが気狂いだと思われるだけですし。
話す必要もないですから」

「それはよかった」


にこりと微笑んで、待田先生はナポレオンの頭にぽんぽんと手を置いた。


「うちのお馬鹿な陛下が、勝手にべらべらと秘密を明かしてしまって、申し訳のない。
出会い頭から転生の話だとかナポレオンだとか言われて、あなたも混乱したでしょう」


待田先生は顔を引きつらせるナポレオンをさておいて、そんなことを言う。

混乱しなかった、と言われれば嘘になる。

けど、なんだろうか。

ナポレオンのペースに巻き込まれたのか、もう前世がどうだとか言う話は、気にならなくなった。


「タイユランよ……誰の頭に手を乗せているのかな?」


茶化されているのが気に食わないのか、額に青筋を浮かべたナポレオンが引きつった笑みで問いかけた。

しかし待田先生のほうが一枚上手で、


「私の講義で熱心に板書をしてくれている、生徒の御堂 暁くんの頭だけれど?」


と、返されてしまった。


そりゃそうなる。


いくら待田先生が前世の部下で気に入らないキャラでも、今の立場ではナポレオンが下なのだ。

前世の権力など通用しない。


「むむむ」


ぷくーっ、と、頬を膨らませ、ナポレオンはそっぽを向いた。