「……えーっと、つまり。
待田先生は、こんな教員生活エンジョイしてるけど、実は生前はナポレオンの側近(みたいな位置)だった、ってことですか?」

「だいたいそんなところだね」


優雅に顎をしゃくる待田先生だが、その実、これは優雅にうなづいたって解決にならない。

これ、大事件だね……。

前世の記憶がある、ってことさえかなり凄いのに、それがこの大学に2人もいる。

しかもなぜか、中世フランス時代の人。

いまいちできすぎていて腑に落ちないけれど、偶然の偶然の偶然、と思うしかない。

人に言ったところで、到底あたしの頭がいかれている、としか人は思わないだろう。

ここは黙っておくに越したことはない。

生前はあんな戦争やらかしたナポレオンだけど、いまのところは無害だし……。


あたしは隣の椅子に座って、やたらちらちらとあたしに目を配るナポレオンに一瞥をくれる。


というか、ナポレオン……さっきからずっとあたしを見てない?

襲われそうになった(かもしれない)ところをあたしに見られたからって、そんな気まずそうにしなくてもいいと思うんだが。


「おやおや……」


タレーラン、もとい待田先生は、すらりとした指を唇に当ててほくそ微笑んだ。

その“温かい目”ともいうべき視線を、ナポレオンに注いで、だ。


「やはりストライクゾーンでしたか。
そんなに気になるなら、私はこの場で去りましょうか、陛下?」

「ちがう」


ナポレオンは意味不明な待田先生の言葉を一刀両断して、待田先生を睨みつけた。


「我が輩は忘れてはおらんぞ。
お前が生前……」

「色と女を好んだのは認めますが、私は黒髪は好みではありませんから、安心なさいませ」

「うむ……“友人”がお前の手に堕ちたなど、我が輩は笑えぬからな」

「私はもっとこう、ミルクティー色の髪をセンターわけにした、青い瞳が美しいお人が好みでございますからね」

「うむ」


いや、うむじゃなく。

それって、もろナポレオンのことでは?

色素が薄くて自然な茶髪だし、センターわけだし、瞳が青いし。

それに待田先生、ナポレオンのことガン見してるし。