これはいよいよ、なにかあったな。

あたしは予感する。

以前、春にナポレオンがあたしの部屋を訪ねてきた時、彼はげっそりと痩せこけていた。


“そろそろクレープの食事にも、身体が悲鳴を上げたようだ、緋奈子よ……”


だいたいそんな感じのことを言って、あたしに助けを求めてきたのも覚えてる。

そりゃ、1人暮らしするまでに普通の食事してた人の体が、急にクレープだけの食事で丈夫に生きていけるわけがなかったのだ。

聞けばナポレオンは料理ができないと言うし、せっかく実家から送られてきたピーマンやらニンジンやらが放ったらかしにされているのだというのだった。

……まあその時は、料理本を貸したりメモらせたりして、なんとか回避できた。


けど、これだけはわかる。


ナポレオンがあたしに頼みごとをする時は、だいたい、厄介なことが起こる時だ。



「“ソーメン”の作り方を教えてくれぬか?」




ナポレオンはそう言ってきたのだ。


それは一からソーメンを作るのか、それともインスタントソーメンを使うのか、どちらであるかは定かではない。

でも普通、インスタントを使うよね。

あれって、汁はともかく、麺は茹でるだけでできるんじゃないのだろうか?


「ソーメンの作り方って……単に茹でるだけじゃない?
なんでソーメンなのかわかんないけど」

「いや、実家の母上殿がくれた食料の奥の奥から、かちかちの白いパスタがでてきてな。
みれば、それは日本の“素麺”なるものというではないか」

「はあ……」


白いパスタ、といえば、確かに見た目はそんな感じかもしれない。

パスタと比べれば、明らかに素麺の方が細いけど。


「だが、その素麺とやら、どう作ったら良いのか分からんのだ。
パッと見て、なにか汁やらソースやらをかけて食べるのは分かったのだが……」

「要は……あんたに素麺の作り方を教えろと」

「うむ。
日本の納涼の食べ物というし、こんな暑い日だ。
いま食べずしていつ食べる」


今でしょ、と流行の言葉を使わんばかりの面差しで、ナポレオンは言った。